
入力回路
アンプにおいて、入力回路はしばしば全体のノイズ性能を決める重要な部分です。
入力回路自身のノイズが高いと、その他でどれだけ対策してもノイズは除去しきれません。
このノイズはアンプ全体の残留ノイズを支配します。
また、外界と直接やり取りを行う入力回路で適切にノイズ除去ができないと、電磁波やプレーヤーから漏れたノイズを拾ってしまい、イヤホン・ヘッドホンから不快なノイズが出てしまいます。
このノイズは主にコモンモードノイズと呼ばれるもので、バランス回路で構成されたアンプで除去することができます。
Brise Audioでは、入力回路には低残留ノイズ、高いコモンモードノイズ除去能力(CMRR)、低歪の3要素を重視しており、全てを高レベルで満たすことを目標としています。
この目標は、「ソースに忠実である」ことを達成するためにあります。

BIS1.0
この回路はBrise Audio初のエレクトロニクス製品であるTSURANAGIに搭載されました。
オーディオ用の低歪なバランスラインレシーバICを用いた回路です。
CMRRを高めるには、入力信号のポジティブ側とネガティブ側を精密に引き算することが重要です。
そのため、1つのICに全ての回路が集約されたものを採用しました。
個別の部品で構成するよりも、格段に部品のマッチングが良いからです。
その結果、1kHzで80dB以上という卓越した性能を実現しています。
BIS2.0
FUGAKUやWATATSUMIで搭載されています。
近年、市場のイヤホンが低インピーダンス・高感度化が進むことを受け、低残留ノイズ化の必要性を感じていました。
回路自身の残留ノイズの影響で、イヤホンからホワイトノイズが聞こえる現象です。
これを解決するため、初段にあった高周波ノイズをカットするフィルタをオーディオ帯域向けに周波数を引き下げ、後段へ伝わるノイズの量をまず下げました。
オーディオ帯域向けと言っても、過渡応答を悪化させないために200kHzから400kHzの間に遮断周波数があります。
さらに、1つのICに集積されていたアンプを2つに分離しました。
これは1段目のアンプが残留ノイズへの寄与度が高いため、より高性能なものにするためです。
ただ、全て個別部品にしてしまうとCMRRを高めるための部品のマッチングが取れなくなるため、薄膜抵抗とアンプが1つのIC集積されたオーディオ向けのアンプを採用しています。
その結果CMRR 80dBを維持しつつ、BIS1.0から残留ノイズを1/4以下に低減することに成功しました。
出力回路
アンプにおいて、出力回路は負荷をかけた際の歪率や波形忠実性、過渡応答を決める重要な部分です。
FUGAKUのように"専用イヤホン"というアンプにとって常に固定の負荷であることは稀で、一般的にはイヤホンからヘッドホンまで大小様々なインピーダンスの負荷を駆動することになります。
インピーダンスが低い場合、小さい出力電圧で音圧が得られますが、ノイズにも敏感になる傾向があります。
また、電圧が小さくて済む分、アンプには電流を要求される場合もあります。
一般的にアンプは電流を要求されるほど歪みやすいという性質があり、電流が高いほど負荷が高いとみなされます。
高負荷時に低歪を維持するためには、高度な回路技術や基板レイアウト技術が求められます。
インピーダンスが高い場合は、音圧を得るために比較的高い出力電圧が要求されます。
スマートホンなど低めの電源電圧で動くアンプが内蔵されるもので音圧を得るのは難しいため、高インピーダンスのヘッドホン等は鳴らしづらいものとされています。
しかし、インピーダンスが高いということはその分電流は要求されません。
つまりアンプが歪む要因が発生しづらいと言えます。
高い出力電圧で駆動するためには、アンプの電源電圧を高く設定しておく必要があります。
この点では、高インピーダンス負荷も想定された、高い電源電圧を有するポータブルアンプの意義が大きいと言えます。
電源電圧が高いと消費電力が大きくなるため、発熱やバッテリーの持続時間の低下などのトレードオフがあるため、むやみに電源電圧を高くすれば良いというわけでもありません。
イヤホンやヘッドホンにはインピーダンスの他に能率というパラメータもあります。
1mWの電力をかけたときに音圧が何dBSPL得られるか、という指標です。
インピーダンスがある程度高くても能率が極端に低い場合、電力(電圧と電流の掛け算)が求められるため、結果的に高い電圧と高い電流の両方が要求されることもあります。
このようなケースが最もアンプにとって負荷が高く、本当の意味で"鳴らしづらい"イヤホン・ヘッドホンと言えるでしょう。
また、イヤホンやヘッドホンはボイスコイルのためアンプからは、誘導性の負荷(インダクタンス成分)と、容量性の負荷(コンデンサ成分)、抵抗成分の3つから成る複雑な負荷として見えます。
容量性の負荷はアンプを異常発振させる厄介な成分で、これを想定した設計が求められます。
主にケーブルによる静電容量と、ドライバーに寄生している静電容量に別れます。
抵抗成分は主にアンプからイヤホン・ヘッドホンまでのケーブルの配線抵抗やネットワークに存在します。
近年、ハイエンドイヤホンはドライバー数が増える等で低インピーダンス化が進んでいたり、ヘッドホンでは低インピーダンスな平面磁界型や低能率な機種が市場に増えています。
Brise Audioでは、市場のイヤホン・ヘッドホンを過不足なく駆動できるアンプを目指しています。

BOS1.0
この回路はBrise Audio初のエレクトロニクス製品であるTSURANAGIに搭載されました。
入力回路でバランス信号からアンバランス信号に変換され、電子ボリュームや電圧アンプを経てこの回路に入力されます。
バランス信号を出力するため、ここでアンバランス-バランス変換を行うため、FD Amp(全差動OPAMP)を用いています。
全差動OPAMPだけでは負荷を駆動できないので、電流帰還アンプを後ろに置いています。
電流帰還アンプは単体で1倍のアンプとして動作しており、この出力を全差動OPAMPに帰還させる、複合アンプの形を取っています。
電流帰還アンプ単体でも比較的低歪みに駆動できますが、さらに歪みを抑えるため、全差動OPAMPでも歪みキャンセルを行っています。
Isolatorは負荷の容量成分で発振を防止するための回路です。
アンプと負荷の間にインピーダンスがあると分離されるのですが、オーディオ帯域で抵抗があるとダンピングファクタが低くなり、駆動力が弱くなってしまうため、発振を起こす高周波側でのみインピーダンスが高い素子を用いています。
また、このIsolatorも高い電流を通すことになるため、歪みを起こさない素子を選定しています。
DCサーボ回路は、アンプのDCオフセットをキャンセルするための回路で、出力のACカップリングコンデンサを排除する目的で採用されています。
メインの音声帯域に悪影響せず、DCオフセットのみキャンセルすることが求められるため、余計なノイズや歪みを付加しないよう注意されています。
BOS1.5
BOS1.0をベースとして改良し、WATATSUMIに初めて搭載された回路です。
Isolatorで使用していた素子の新機種がリリースされ、定格電流が2倍以上のものに置き換えられました。
これにより、さらに駆動力が向上し、限界付近で駆動した際の歪率が改善されました。
また、DCサーボも帰還方式を見直し抵抗を1つ削減、OPAMPは低ノイズ、低歪率、低オフセット、低消費電流の全てを満たす超高性能な最新機種に置き換えられています。
また、基板レイアウトの思想をアップデートし、回路の基準となるGNDの位置を出力付近かつ左右チャンネルに対して等距離となるよう対称な場所に配置しました。
基板の銅箔の厚みも2倍に増やすなど、大電流出力時にも安定して揺るがないアンプとなるよう、細心の注意を払って設計されています。
これらにより、16Ω負荷時の歪率が1/3以上低下し、最大出力は3倍向上を実現しました。